テーブルマナー 先日「ユトリロとヴァラドン展」を観ました。ユトリロは好きな画家の 一人ですが、その生い立ちと母親との関わり合いなどを知ることも 出来ました。今夏の旅行では帰途パリに立ち寄るのでモンマルトル の丘を散策し、ユトリロゆかりのラバン・アジルでワインを一杯やり、 ムーランルージュでディナーショーも観ようということにしました。 ところで、この展覧会を観に横浜まで出掛けたのにはもう一つの 理由がありました。こちらの方が主目的だったかも知れません。 帰りに横浜元町の霧笛楼に寄り、そこのフランス料理を楽しもう ということでした。安いお昼のコース(\3,500)しか摂りませんが、 大正ロマンを感じさせるいかにも港町の雰囲気の店で、美味しい 料理の盛りつけられたお皿も絵柄の異国情緒が嬉しいです。 食事の途中で、ふと、昔読んだ小説の一節を思い出しました。 その題名も作者も思い出せないのですが、その一節とは: 主人公が、とあるフランス料理レストランで食事している時、 スープをスプーンで向こう側から手前にすくって飲んでいました。 傍らのテーブルの女性がそれを見て、連れていた子供に 「坊や、スープは手前から向こうへすくって飲むものなのよ。」と こちらへ聞こえよがしに言いました。主人公は 「フランスでは手前 にすくうのがマナーなのに。」 と、内心思ったという話でした。 何故そんな忘れていたような話を思い出したのか分かりませんが、 思い出すと気になるものです。カミさんはその時 「ウエートレスに でも聞いてみたら?」 と言いましたが、気恥ずかしくそのままにして しまいました。 ルイ王朝時代にはまだ手づかみで食事をしていたというフランス料理 で、スープを向こうにすくっても、手前にすくってもどうと言うことはない のに、つまらないことが気になるのは、脳細胞が老化し始めたのかな とも考えています。 一昨日、真形さんに会った時その話をしたら 「e砲台には物知りが 多いから、聞けばすぐ分かるよ。」 とアドヴァイズされました。 その通りと思いこのメールを書きました。物知りの方、教えて下さい。 つまらないことを気にしている平和ぼけの・・・ 嘉瀬 追伸:スープの話では 『斜陽』 に中に、貴婦人がスプーンでスープを 口へ運ぶのを 「ひらひら」と運ぶと表現してあったのを思い出しました。 そのような上品な食事の仕方を身につけたいものです。
テーブルマナーについての私の質問に何人かの方々から貴重な ご意見を頂きました。それを独り占めにするのはもったいない ので、返信者(筆者)名を伏せて転送します。CCが食いしんぼ とフランス通と思われる方々でしたので、どれが誰の発信かを 想像するのも一興かと思います。 << >>内は嘉瀬の注釈。 嘉瀬 敏 TEL/FAX 044-966-2437 <<Aさんのご意見>> 先ず最初に私は物知りでも何でもありませんと断っておいて: その方が気が楽だし 食い物の事となると無性に口を出したく なって: 1。 結論から先に言えば 淑女の云った通り。 これが大正解です。 主人公は悔し紛れに心の中で「フランスでは手前に・・・・(明らか に間違い)」 とつぶやいたのでしょう。 これだけを取れば淑女の 勝ちですが。 2。 あとがいけません。 公の場で聞こえよがしに云ったとしたらこれ は大減点!逆に品性をうたがわれてしまう。 主人公はむしろその 聞こえよがしの方に 腹を立てていたのかも知れない。 3。 追伸に飛びます。 西洋の食事で一番きれいな所作が見られるの は スープを飲むとき と お茶をいれる時でしょう。きれいに スープを飲む姿はその人の品格を表現します。 その点「斜陽」 の文学者の眼はするどかった訳であります。 4。 今 マナー教室でスープの飲み方をどのように教えているか存じま せんが 教科の最重点項目であった事は間違いありません。私でも お嬢さんのスープの飲み方でその人の品格(育ち)を大体言い当てる 事が出来ますもの。 そういう意味で淑女の子供(多分娘さん)への 躾が厳しかったのでしょう。 将来の嫁入りの事も考えて!? 然し 聞こえよがしはよくありません。 これも品位の問題です。 5。 最近欧州ではめっきりスープのメニューが減りました。いろいろな 原因があるようです。 素材の問題。 手間暇の問題(手間をかける 割に注文が少ない)。 スープを飲むマナーの問題も関係なしとしない でしょう。 (因みに私が最高と思うスープは 東京会館の「マドリ (マドリッド)の夕暮れ」と名付けられたコンソメ・スープでしょう) 閑話休題 6。 スープを皿の先の方から飲むにはいろいろな理由があるのです。 先ずスープをこぼす確率が低い。こぼれても大方皿の中。手前では モタモタしていてナプキンかズボンの上に。 それに右手の動きから いっても前者の方が大振りで自然。 7。 皿の手前をちょっと持ち上げ前方に傾けスープンで前方にすくう様は 結構絵になるものです。 これが手前に引くでは全くサマにはなりま せん。 ことにスープが残り少なくなった時には 前者の方が効率的 であります。 8。 然しスープの飲み方で一番大切なのは すくう方向もありますが スプーンを口に入れる方角です。 スプーンの軸の方角が口の方向 に向いていれば自然にたやすく流し込める訳です。 普通殆どの人 はスプーンの軸方向が口に直角になっていて くぼみの横腹から すすっている状態です。 これが音を立てる原因になったり こぼす 元になるのです。 スープは すするものでなく 口に流し込むもの なのです。 9。 さすれば問題はスプーンの形状です。 材質はともかくとして口の 中にすんなりと入っていくような 先がやや細く細長い卵形のくぼみ がよいのです。 いくらGデザイン賞を貰おうが 丸い受け皿のスプ ーンなど論外です。 所詮スプーンは飲むための道具であり 見るための鑑賞物でもないのですから。 10。 手掴みが フォーク + ナイフ となり 何時の頃からスプーン が使われるようになったのかは 寡聞にして存じません。 以上気付くまま スープの飲み方などを講義してしまいました。 「医者の不養生」の諺とおり 自分のマナーとなると 全く自信はあり ません。 自戒の意味を込めて認めました。 <<以上に対してのBさんからのメール>> いや参りましたね。 私のような野蛮人には縁のない社会ですが、仲良くしていたフランス人は皆手前に 飲んでいました。 やつらもラ・ゴードの田舎ものだったからでしょうね。 <<Cさんからは学術的なメールが>> 日頃ROMを決めこんで居りますが、人一倍食いしん坊、いや、意地の汚い小生、嘉瀬 さんとAさんのメールの交換を読みながらつい口の中が唾でいっぱいになってきま した。と言っても小生の場合思い出すのは洗練されたコンソメの味ではなくて、真冬 の夜、凍えそうになりながらたどり着いた安飯屋で食べたオニオングラタン、チリ、 またはレンズ豆のどろどろしたヤツです。つまり最も原始的な、一皿でそれ自体が食 事になるというタグイです。子供の頃に可愛がってくれた葉山の漁師のお爺さんの小 屋で、囲炉裏に自在鉤でぶらさがって、一年中毎日新しい雑魚やくず野菜が放り込ま れていた、味噌仕立ての万年鍋のえも言えぬ味を思い出します。 いずれにしても食の原点にはスープがあり、リゾットや日本の雑炊も含めて昔の貧し かった時代にはこれが一般の食事だったのではないかと思いますが。因みに今では普 通、スープを飲むと云いますが、大人に成るまでイギリスで育てられてしまったオフ クロから、幼い頃によく“Eat your soup!"と命令されたものでした。 さて美味しさから云えば究極のスープはAさんの言われるように矢張り澄まし汁だ と思います。日本のお椀を含めて良いスープストックから手間をかけて造ったコンソ メの味に勝るものはないと信じています。 先日テレビで誰かがトムヤムクンが最高 のスープであると云っていましたが、小生の味覚には合わないようです。 <嘉瀬曰く。赤坂で食べたのは確かに美味しいとは言えませんでした。 バンコクでは何軒かでトムヤンクンを摂りましたがどれも美味しかったです。> マナーに就いてはさっぱり判りませんが、要は回りに不快感を与えない様に、楽しそ うに自然に食べれば良いのでしょう。あまり気にしてWestpoint流のコチコチなスク エアミールも困ります。音を立てて啜らないこと、スプーンやナイフを振り回さない こと、品良く食べるのには両肘を体側から離さないこと、などでしょう。 小生が参加している企業人の集まりで、お茶の先生を招いて会席料理の食べ方を習っ たことがありましたが、日頃10分ぐらいでかき込んでいる食事になんと1時間もかか り、終わった時には全員ぐったりとしていました。 これも慣れれば何でもないので しょうが。 西洋の食事に今のようなフラットウェアが使われ始めたのは何時か小生も知りません が、一説によると洗練された料理法と共にマリー・アントワネットがお嫁入りの時に イタリアから持ちこんだとのことです。 <<Aさん曰く。それはメディチ家のカトリーヌ(カトリーヌ メディチ)だとのことで、同時にたくさんの料理人を連れて行き またお輿入れ道具に沢山の料理道具(調理道具とともにフォーク、 ナイフ等の食器類も合わせて)を持ちこんだ事が記録に出ています。 これを契機にフランス料理の洗練化が始まるのだそうです。>> それまでは歴代のルイ王たちも鷲掴みにドラムスティックを齧り、 ナプキンの替わりにシャツの袖で口の周りを拭っていたのかと 想像すると、当時18世紀の中頃と言えば日本では徳川の爛熟期 を経て享保の改革の真っ只中、いかに日本(中国)の文化が発達 していたかと、今更感心します。 思いつくままくだらない感想でお耳をけがしました。 そろそろお腹が空いたので、 マウンテンゴッデスが留守なのでキャンベルスープでも開けることにします。 追伸: 一寸思いついてAmy Vanderbilt の“えけちっと”ブックをひもどいたところ、 フォーマルディナーのマナーの中に次の記述がありましたのでご参考まで。 A soup plate is always used at a formal dinner. Since soup served in a plate requires a large soup spoon, you sip the soup from the side of the spoon rather than attempting to put such a large utensil into your mouth. To spoon up the last remaining soup, tip the plate away from you (it's less awkward this way) and scoop it up. Then, leave the spoon in the soup plate, or on the place plate if there's room. A two-handled soup cup is used for jellied soup or consomme. You can drink the soup from a handled cup as well as spooning it. If there are vegetables or garnish floating on the top, eat these with a spoon before drinking the soup. Hold the cup by its handles, rather than cradling it. And, when you have finished, leave the spoon on the service plate. <<他にもいくつかのヤリトリがありましたが、要は次のAさんの ご意見に集約されるようです。>> 然し我々の立場は学問ではなくて ひたすら食べ飲むこと。 要は 美味しく食べること 美味しそうに食べること まずそうには食べないこと に尽きると存じます。 <<これには皆さん賛成でした。そして今後のことは?>> いや 本当は何でも美味く食べればよいのです。 見た目に 美味しそうに食べること これが何よりです。 一番いけない のは 美味い物をまずそうに食べることです。 今回はスープの飲み方という事を多少お嬢さま向きに書きま した。 次は ものの美味しそうな食べ方(”私の”ではありま せん。“私の見た”です。) について書きましょう。